五十肩に対する評価や施術法についてのご質問
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五十肩に対する評価と施術
S・Tさんから質問:マッサージ師として整体院を営んでいます。肩の痛みや可動域の低下を訴える患者さんが来られた時に、状態の判別がよく分からずに肩周囲の筋肉を一通りマッサージして経過をみてもらっていますが、先日そのような施術で悪化したという患者さんがおりました。その後整形外科を受診したら五十肩と診断され、マッサージはよくないと医師から言われたとのことでした。五十肩のことも正直よく分かりません。どのように考えるべきでしょうか。
ISHIKAWA Case Advice
ご質問ありがとうございます。肩に関する基本的な考え方、評価と施術についてお話させて頂きたいと思います。
肩関節に関する評価方法や基本的な概念をまとめた書籍等はこれまでにも多数出版されていると思いますが、臨床において実際にマネジメントするとなると、テキストにある内容はその素地であって、実際の現場とはかなりの温度差があると思います。
あまり理論的になり過ぎず、肩部に関する基本的な解剖学や運動学等を前提として、実践を想定してお話したいと思います。
肩の評価:クライアントへのヒアリング
まずヒアリングです。発症契機、軽減増悪要素、主訴の質、関連症状、疼痛部位、発症からの経過、VAS、既往歴、現病歴、家族歴といった必要な情報収集はマストです。
このヒアリングをしながら、まずは緊急性がないか、重篤性がないかと念頭において、対話を進めてください。上記に挙げた質問項目中で緊急性や重篤性を示唆できるものとすると、外傷による発症、自発痛、夜間痛、発症から現在に至る経過が増悪傾向である場合、また上肢症状の有無、呼吸での増悪、運動時(心拍数の増加による)の増悪、両側性の上肢症状などです。いわゆるレッドフラッグサインを見落とさないことは大前提です。
肩の評価:構造的異常の確認
その次に構造的異常を呈している可能性、つまり骨折、脱臼、亜脱臼、脱腱、腱断裂、インピンジメント症候群、変形性関節症などの可能性です。
まずは炎症所見が見られていないかの確認が必須です。基本的なことでが、肩患部の発赤、腫脹、熱感、浮腫などがないか評価してください。
ここで五十肩の可能性も視野にいれる必要があります。
五十肩と確定する前に考える事とは
医学用語として「五十肩」という言葉を用いる場合には、原因・病態が明らかな疾患は除外するもので、実際に五十肩に該当する症例はそれほど多くはないとされており、肩峰下滑液包炎、腱板炎、腱板断裂、石灰性腱板炎、変形性関節症、変形性肩鎖関節症、肩峰下インピンジメント症候群などとの鑑別が必要になります。
五十肩の原因は現在も不明であり明確な定義ができていないもので、不動、過使用、神経圧迫、自律神経など様々な原因が研究されてきましたが、どれも統計学的に有意性が認められていません。
ただし現場において多くの場合に認められる主な所見は明かな疼痛と可動制限、夜間痛、上肢の関連痛、患側を下にした側臥位で寝ることができないというものです。
年齢は早くて40代というところかと思います。レントゲン読影において広範な炎症像が認められることが殆どのようです。
最大の特徴は、Freezing phase:痙縮期→Frozen phase:凍結期→Thawing phase:解凍期の3フェーズがあり、一連がおよそ概ね1年前後で終了することが殆どであると思われます。
痙縮期から疼痛が急速に増強することも少なくなく、凍結してほぼ可動不能か著しい可動制限と疼痛により明らかにQOLが低下します。この期間が一定続いた後、氷が徐々に解けるように回復に向かうことが多くの経過かと思います。
五十肩はその他の鑑別診断を除外した結果、現症と照らし合わせて確定するものであり、もちろん最終的には専門医の確定診断を受けることが必要になります。
五十肩に対するマッサージの前に
個人的にはこのような五十肩の可能性がある場合は、マッサージの施術は凍結期に入ってからが有効になると考えます。痙縮期は炎症状態であるが故、血行促進作用、癒着の改善等は結果的に疼痛を増強させ、治癒の遅延を引き起こす可能性もあると考えます。
痙縮期から凍結期に切り替わる前に、一度疼痛が引き楽になる期間があると言われています。患者さんの多くはこれで良くなるのかと錯覚するのですが、ここから炎症部位の癒着が始ります。このタイミングでマッサージの施術が有効になると思います。
一方で、五十肩ではない、その他の構造的障害の可能性も低い場合、肩甲上腕関節、肩鎖関節、胸鎖関節、肩甲胸郭関節の関節面の動きを評価して下さい。必要なスキルは関節面の滑り、転がり、軸回旋の評価です。
加えて、ローテーターカフの筋力検査と触診、アウターマッスルの筋力検査と触診の知識とスキルが必要です。
肩の評価:機能的異常の確認
構造的障害の可能性を否定することができたならば、次は機能的評価です。
ここの筋骨格系の機能評価ができれば、マッサージを安全にかつ何倍も有効なものにできると思います。
マッサージでは、ローテーターカフの細かな線維や筋腱移行部、棘下筋、肩甲下筋の癒着しやすい線維群、固着しやすく触診にスキルを要する小胸筋や小円筋、このような細かな部分にアプローチできることが効果を何倍も引き出すことになります。
ざっくりとした解説に留めますが、具体的な個々の評価方法などの紹介はIMICのYoutubeでその一部を紹介していますのでぜひご参考になって下さい。
IMIC学長
石川貴章
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ISHIKAWA CASE ADVICEでは皆様からの臨床におけるご質問などを受け付けております。
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IMIC公式youtube
youtubeでは日々の臨床に役立つIMICのYoutube整体教室を毎日アップロードしております。
動画の内容は、テクニックや知識の極一部です。テクニックはスポットだけで使用するのではなく、
患者様の症状の鑑別、そして詳細な身体の分析を行い、患者様がより早く改善するように行うものです。
参考程度の動画だという事は予めご了承ください。
五十肩に対する総指伸筋を用いたテクニックの実例
総指伸筋を用いたテクニックの実例の動画をyoutubeにアップしております。
今回のケースアドバイスで記入したように、「五十肩」と確定するには様々な評価が必要になります。
動画の内容はアプローチのほんの一部です。
皆様のご参考になれば幸いです。

石川貴章。IMIC学長。石川カイロプラクティック総院長。RMIT大学カイロプラクティック学科日本校の臨床テクニック、臨床学の元常任講師。